大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和28年(ヨ)3462号 決定 1954年12月24日

申請人 神前重治郎

被申請人 大阪此花運送株式会社

主文

本件申請はこれを却下する。

申請費用は申請人の負担とする。

申請の趣旨

被申請人は申請人を被申請会社の従業員として取扱い、昭和二八年一二月一日以降毎月二〇日及び翌月七日に各金八、〇〇〇円宛を仮に支払わなければならない、との仮処分を求める。

理由

当事者双方の提出した疎明資料により当裁判所が一応認定した事実、並びにこれに基く判断は次の通りである。

第一、解雇に至る経過

被申請人(以下単に会社と云う)は、普通自動車一一八台、小型自動車五五台、特殊自動車五台、トレラー一六台を擁して一般区域及び路線の貨物自動車運送事業を営む資本総額一、七二〇万円の株式会社で、肩書地に本店を、此花、西淀川、中央市場外数ケ所に営業所を置き、他に修理工場をも有するものであり、申請人は会社の従業員であり、且つ大阪自動車運輸労働組合此花支部(以下単に組合と云う)の組合員である。

会社は、昭和二八年三月から四月にかけて役職員約九〇名中一九名の人事異動を行うことを取決め、同年四月一八日その一環として申請人に対し西淀川営業所係長を免じ本社業務課運賃係長を命ずる旨を内示し、同月二一日その旨通告した。申請人は、これに対して戦後の会社の人事異動は一貫して派閥人事か、さもなくば嫌がらせの人事であつて、申請人に対する配置転換も嫌がらせ以上の何ものでもないという立場にたつて、「(一)申請人は自動車の運転乃至修理の経験しかない上、計算は不得手である故、運賃係には適しない。(二)未収運賃の督促係は前任者も不首尾に終り退職を余儀なくされた事実がある故、業務課長、課長代理乃至営業所長の職務との関連上その責任と権限を明確にされたい。(三)未収運賃の取立のみならば前記の者と協力すれば片手間にも出来る故、現職のまま担当させて貰いたい」旨を会社に申入れたところ、会社は、「未収運賃が累増しその回収が愈々困難の度を加えておる折柄、その集金の督励鞭撻、未收運賃の回収及び促進について営業所と連絡の上実績を上げて貰いたい、申請人において自ら算盤を持ち計算書を作成するのではない。なお、権限の点について不明確な点があれば着任後改善してもよいし申請人が不適任である場合乃至はその仕事が片手間で十分である場合には次の人事異動を考慮する」旨回答したが、申請人はこれに満足せず事実上運賃係長への配置転換を拒否し、その後再三会社より督促を受けたが前同様の応答を繰返すのみで対立したまま推移したが、会社は、遂に同年一〇月三〇日申請人に対し会社の業務上差支を生ずる故一一月四日迄に着任すべき旨催告し、更に同年一一月九日、内容証明郵便で同月一二日までに着任すべき旨、及び同日迄に服務しないときは相当の処置をとる旨を通告したが、同書面は申請人より未開封のまま返却されたので、同月一二日口頭を以つてその旨を伝えて再考を促し、申請人が依然として配置転換拒否の態度を改めないので、同月一六日付翌十七日到達の書面で申請人を解雇する旨通告した。

第二、解雇の効力

一、不当労働行為の成否について

申請人は組合の中心的人物として組合活動に従事して来たため、会社において申請人の組合活動を封殺し排除せんとの意図に基き不利益取扱であることの明らかな本社業務課運賃係長への転勤命令を発し、申請人がこれに従わぬことを表面上の理由として解雇処分がなされるに至つたものであるから、右解雇は明らかに不当労働行為として無効であると主張するに対し、被申請人は右解雇は申請人の組合活動とは何等関係はなく、全く申請人が転勤命令に従わなかつたことによると主張する。

申請人は昭和二十一年大阪貨物自動車労働組合此花運送支部として組合の発足当時、組合の副支部長、昭和二十二年同副支部長兼本部執行委員(後半は支部長)、昭和二十三年本部副委員長(本部常任として会社は休職し、その間全国組織の争議対策部長、近畿地方協議会書記長を歴任、同年八月本部解散後、原職に復す)昭和二十四年職場委員、昭和二十五年組合が大阪自動車運輸労働組合に加盟し、支部執行委員、組織部長兼本部執行委員、昭和二十六年本部執行委員、昭和二十七年支部委員長兼本部副委員長、昭和二十八年支部委員長(同年十月の臨時大会で辞任後は職場委員)に各就任していたものであり、その組合経歴からも申請人が終始組合の中心的人物として活溌に組合活動を推進しており、従つて申請人が会社から組合活動家として注視をうけていたことが窺われるのであつて、申請人が組合の支部委員長を辞任した機会に前記解雇処分がなされたことを考え合せると、他に、より決定的な解雇理由がない限り会社の右解雇処分の根底には、申請人の組合における地位乃至組合活動を理由とする差別待遇意思が働いているものと推測されるのである。併し乍ら、会社は前記転勤命令拒否を以て解雇理由としているのであつて、会社の転勤命令が適法である限り、会社はその拒否によつて経営秩序を紊されるわけであるから、その拒否を理由に解雇することもできる立場にあるわけである。もし、会社の右転勤命令のうちに不利益な差別待遇の事実が認められるときは、申請人が組合の中心的人物として活溌に組合活動を推進していた事実等と相俟つて会社の解雇処分の意図が、申請人の組合における地位乃至組合活動を理由とする不当解雇意思を基本的な真の原因とするものであることを露呈するであろう。又もし、その転勤命令自体が不利益な取扱に該当しないとみられるときは、かかる転勤命令に対する拒否が会社の規律保持に多大の影響をもつ事柄だけに、これを理由とする会社の解雇意図が却つて決定的な解雇原因と評価されるであらう。従つて、申請人に対する右解雇が果して会社のいかなる意図のもとになされたかを探究するについては、右転勤命令が申請人主張の如く不利益取扱に当るか否か等をも検討してこれとの関連において会社の右解雇意図を客観的に考察しなければならない。

そこで本件配置転換が不利益な取扱に該当するか否かについて検討する。

申請人が右配置転換が不利益な取扱であると主張する論拠の要旨は、自動車の修理、整備等の作業に従事していた申請人の経歴からして、事務乃至会計関係の業務課運賃係長の職は申請人にとつてきわめて不適任であるのは勿論、満足にその職を果すことは不可能である。加之、運賃係長の権限と責任が不明確であり、且つ未収運賃の回収は困難な業務であるところより、会社の前例からみて、自然退職を余儀なくされる恐がある、と云う点にある。

(1)  申請人の職歴 申請人は昭和六年一一月自動車運転免許を受けると共に運転手として働き、同一三年応召し同一八年除隊になる迄自動車廠で自動車の修理作業に従事し除隊後一時梅鉢自動車工場で特殊自動車の製作に関係し、同一九年七月被申請会社に職員として入社業務部車輌課に勤務し、自動車の修理業務を担当し、同二〇年一〇月工務課の設置に伴い同課整備係長として、自動車の修理業務に従事し翌二一年三月現在の西淀川営業所(当時は野里営業所)係長に就任し、同二七年二月二一日大阪陸運局より道路運送車輌法第五一条の整備管理者として資格確認を受けたものである。

(2)  西淀川営業所係長と本社業務課運賃係長の職務内容 会社の事務分掌規定によれば、各営業所には、庶務係、燃料係、整備係、配車係を設け、庶務係においては(イ)営業所に属する庶務一般、並びに運賃の回収、(ロ)従業員の指導監督(ハ)庶務関係の諸報告、届書類、本社の各部課係との連絡を、燃料係においては(イ)燃料オイル等の受給保管、(ロ)燃料関係の諸統計並びに報告等を、整備係においては(イ)車輌の修理、調整、修理資材の受給管理、(ロ)車輌の修理関係の諸統計並びに諸届報告(ハ)その他営業所整備関係事務を、配車係においては(イ)受註及び荷主との連絡、(ロ)配車並びに関係事務を分担すべき旨定められており、申請人は、西淀川営業所において主として整備係の業務を分担し、車輌を点検し、故障車の修理工場への入庫指示等車輌の修理調整に関する業務を担当し、同時に車輌修理関係の諸統計並びに諸届、報告その他の事務をも担当すべき地位にあり、通称、西淀川営業所整備係長と呼ばれていたが、元来営業所には係長は置かれず、たゞ申請人が本社工務課勤務当時同課整備係長の職にあつた関係上営業所に転出した際も係長と云う格付けで発令され主として整備関係を担当していた関係上かく呼称されていたに過ぎないものであり実質的には営業所長の次席者としてこれを輔佐すべき地位にあつたのみならず、西淀川営業所においては職員は所長外三名、配属車輌は普通型一五台、小型五台に過ぎず、かかる小規模な営業所においては職員は夫々整備、配車集金等の担当を持ちながらも、同時に互に他の担当業務にも協力するのが慣行上の建前になつており、申請人も整備関係業務の外、集金配車等の業務をも行つていた。一方本社業務課運賃係は、事務分掌規定によれば、(イ)運賃料金の計算並びに請求書の作成(ロ)作業日報の検討調査整理保管(ハ)集金の督励、鞭撻、未収運賃の回収促進(ニ)運賃統計並びに諸報告調査を担当すべき旨定められており、各営業所よりの日報に基き運賃料金を計算して請求書を作成しこれを営業所に配布し営業所において集金の上直接経理課に納入し、未収運賃については業務課運賃係において、各営業所にその集金方を督励鞭撻する一方或いは営業所長乃至営業所庶務担当職員と協力して、或いは直接に、これを取立てる建前になつており、特に未収運賃の回収を重点的に担当すべき旨明示して業務課運賃係長を命じられた申請人としては、業務課長乃至課長代理の指示と助言の下にそのなすべき職務は自ら明瞭である。

(3)  業務課運賃係職員の異動状況 会社設立の当初には運賃係において現金を取扱つていた関係上、運賃係長の中には不正行為の廉で退職したものもあるが、機構を改めて現金の収受を経理課会計係に行わせるようになつてからは退職はなく、昭和二二年以来運賃係の職務を担当しているものもあれば運賃係長より業務課長代理に昇進したものもでている。申請人は、野里営業所長より本社総務部付に転じた広田梅一、及び梅田営業所長より本社役員室付に転じた中村亜山がいずれも退職した事実を捉えて、本社への転勤は解雇の前提の如く主張するが、直ちにこれを肯定するに足る資料はない。

これらの事実によれば、申請人は主として自動車の整備修理の経験を有するものであるが、その職務内容も、自ら整備乃至修理を現実に担当することにはじまり、漸次車輌の点検、入庫の指示等監督的な地位に昇進し、営業所の次席者として営業部面にも接触を有しており、運賃回収の業務も必ずしも未経験ではないから、業務課運賃係長の職はその適材適所を得たものであるか否かは別として、会社の命じた未収運賃の回収業務に関する限り、申請人において一応その職務を遂行し得るものと云わざるを得ないし、未収運賃回収についての運賃係の職務は、なるほど運賃回収を直接担当する各営業所の業務と重複してはいるが、その職制の当否は別として、その職務内容の大要は明瞭である上、職務においては、会社の機構からいつて業務課長乃至課長代理の指示、助言を受け得べきものであり加之、会社においては申請人が若し不適任である場合乃至機構上に不備のある場合には善処することを明言している事情もあるから、他に組合活動に対する支障及び労働条件上の不利益の認められない本件では右配置転換をもつて申請人にとつて不利益な取扱であると解することはできない、却つて右の事情に、当時の経済界の不況化に伴い毎月漸増する状況にあつた未収運賃についてその回収のため運賃係を強化する必要性があつたこと、従来より会社においては戦時中設立された所謂統合会社の通弊として機構人員上に不調和があることも一因をなして、運転整備の経験者の事務系統への転用が行われることも二、三に止まらず、かかる措置も自動車運送事業を営む中小企業においては止むを得ざるものと解せられること、営業所係長より本社業務課運賃係長への転出は申請人の会社における将来の昇進によつて必ずしも妨げとなるものとは認められないこと等を考え併せると、職員として採用せられた申請人に対する本件配置転換は業務の運営上会社の権限に属する人事権の裁量の範囲を逸脱するものではないと解するのが相当である。

以上の認定並びに前記第一の「解雇に至る経過」の個所で認定した転勤命令に対する当事者間の折衝の経緯に徴すれば、申請人に対する解雇は、申請人の主張する如くその転勤命令拒否を表面上の理由としてその組合における地位乃至組合活動を真実の理由としてなされたものとは認められず、却つて申請人が会社の適法な転勤命令に対し徒らに事を構えてこれを無視し再三再四に亘る督促にも拘らずこれを拒否した職務上の義務違背のために、会社として社内秩序を維持する上から止むなく「業務の都合」という形式で解雇の措置をとつたものとみる外はないのであつて、従つて、右解雇は不当労働行為を構成しないといわなければならない。

二、その余の主張について

申請人は前記転勤命令自体が申請人の組合活動を理由とする不利益取扱であるから、これを拒否する正当な理由があり、従つて右転勤命令に従わなかつたことを理由とする解雇は無効であると主張するけれども、この点に関し、解雇に正当理由を要するとし、もしこれを欠くときは解雇を無効とする立場をとるか、又は解雇権の濫用としてかかる場合を構成するか、そのいずれをとるにせよ、右転勤命令が不利益な取扱ではなく会社の人事権に基く適法なものであることは前段認定の通りであつて、不当労働行為ではないと解すべきであるから、申請人において右転勤命令を拒否するのはその理由を欠き不当というの外なく、従つて、会社においてこれを理由に申請人を解雇したことも、会社内の秩序維持のために止むを得ないところであつて、その有効であること勿論である。

第三、以上の次第で、申請人に対する解雇は有効であり、解雇の無効であることを前提とする申請人の本件申請はいずれも理由がないから、これを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文の通り決定する。

(裁判官 坂速雄 木下忠良 園部秀信)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例